北海道の知事
建設グラフ2001年2月号の記事内容より
――そうした技術開発についてお聞きしますが、ある雑誌では、世界中の人間が日本人と同じライフスタイルで暮らしたなら、地球があと2つは必要になると報じていました
堀
これからの科学技術には、環境にやさしい素材や新エネルギーの開発など、人と自然が無理なく共存できる社会を支えるものとなることが期待されます。
北海道が公的需要に依存した体質から自立型の経済構造への転換を図るためにも、道内に蓄積されつつある技術を開花させるとともに、道外から積極的に知恵を集めていくことが重要な課題です。
こうしたことから、北海道の発展を牽引する未来型産業を創造していくための実用化・事業化に対する支援を行うとともに、本道の産業技術の高度化や、新規事業の創造を促進するための人材誘致の仕組みづくりを進めています。
そして、自然環境とライフスタイルの調和も大事です。
21世紀は「環境の世紀」とも言われています。北海道にかつて広がっていた豊かな自然を蘇らせるとともに、環境と調和した持続可能なライフスタイルを実現すれば、北海道が循環型社会の世界的なモデルとなることが可能であり、北海道の価値を一層高めていくものと期待されます。
こうしたことから、みどりの環境づくりの推進や、北海道に生息する希少動植物の保護の取り組みを進めています。
北海道の知事
建設グラフ2001年2月号の記事内容より
――一方、世界でも例の少ない積雪寒冷都市を抱える北海道は、寒地住宅都市研究所の建て替えと、研究システムやサービスのリニューアルに着手していますね
堀
はい。現在、平成14年度のオープンをめざして旭川リサーチパーク内で建設を行っています。
新施設では、これまでの研究成果を反映した、環境との共生を重視する、「パッシブ換気」(建物内外の温度差を利用した自然換気システム)や「自然光照明」、また、「氷冷房」(地下ピットにアイスシェルターを設置し外気を通し建物内に入れる)などの設備を取り入れ、21世紀の寒冷地施設のパイロットモデルを目指してい ます。
また、新施設は、道民に開かれた新しいタイプの研究所を目指しており、研究内容やその成果に関する情報を、展示や画面で皆様に見ていただけるようにするとともに、大学や企業、さらに、他の研究機 関や市町村との連携を密にし、建築に関する技術開発や環境・防災に関する研究をより進めていきたいと考えています。
北海道の知事
建設グラフ2001年2月号の記事内容より
――確かに、最近の情報通信技術の革新が、あらゆる産業の生産性をドラスティックに向上させると期待する声もありますが、どう考えますか
堀
また、こうした技術を活用することが、農業や製造業、流通、観光など、本道の既存産業の付加価値を高めていく上では非常に重要です。
幸いなことに、本道の情報通信産業の人材供給力などに着目し、最近コールセンターなどのit関連企業の本道への進出が活発化してきています。
このようなitをめぐる速い動きに機敏に対応し、道としても迅速で効果的な施策展開を図っていく必要があります。
とりわけ、技術革新によって急速に普及率が高まっているインターネットは、優れた情報通信手段として、電子商取引をはじめ幅広い経済活動を支える社会基盤となりつつあります。
いわゆるIT革命は、暮らしと産業に大きな変化をもたらしていることから、日進月歩で進む情報通信分野の展開に乗り遅れることなく、インターネット利用環境の整備や 関連産業の振興に向けた取り組みを進めることが、いま直面している課題だと思います。
北海道の知事
建設グラフ2001年2月号の記事内容より
――北海道は、ミレニアム事業を展開していますが、自立に向けての効果は期待できますか
堀
もちろんです。
「ミレニアムプロジェクト」は、新たな千年紀を迎える歴史的な節目にあたって、将来の北海道の発展の基礎となる施策として取り組んでいるのです。
私たちはこれまでも、たくましい産業の展開や、環境重視型社会の実現などに向けて、様々な施策を進めてきましたが、これまでの成果を踏まえながら、より戦略的な観点から、新しい時代を拓く大きな流れをつくり出していく必要があると考えています。
その対象として、「情報通信」、「技術開発」、「自然環境」、「人材育成」の4つをテーマ
としたプロジェクトを、道独自の取り組みとして進めているところです。
北海道の知事
建設グラフ2001年2月号の記事内容より
――「サッポロビール」や「カナモト」のように、北海道で育ちながらも一度、成長軌道に乗ると、大市場を求めて道外へ出てしまう企業もあります
堀
それはそれで良いのです。
ただし、営業拠点を北海道にしっかりと置いてもらうことが大事です。
業績が上がったら、途端に東京へ出てしまい、北海道は単なる出稼ぎの場と考えてしまうようでは困ります。
――北海道への赴任と言えば、「官」の場合は出世コースとして扱われ、「民」の場合は左遷のように見られています。
しかし、地元北海道民が、北海道らしさ、北海道のアイデンテティーを深く自覚し、常にそれを意識しながら行動することで、そうした偏見を払拭できるのでは
堀
そうです。私たちが主張する“北海道スタンダード”とは、まさにそれを指して言うのです。
北海道の知事
建設グラフ2001年2月号の記事内容より
――北海道の成り立ちは本州と違って、歴史が浅いため、日本のアイデンテティーと言える伝統と、アメリカナイズと言えるグローバルスタンダードとの中間にあるように思われます。
とするならば、今後、そのスタンスをどこに保っていけばよいのでしょうか
堀
スタンスに拘る必要はないのです。
北海道としてのオリジナルなもの、新しいものを作っていけば、それでよいのです。
経済基盤も弱いわけですから、それをどうカバーするか。
それには、いかに「北海道」にこだわるか、という視点が重要です。
今や、中央(政府)を見ていれば仕事ができる時代ではありません。
北海道でまずやろうと、足下から考えていかなければなりません。
農産物でも工業品でも何でもそうですが、地域にあるものに対して、地域の皆さん が誇りを持つことから始めることです。
北海道の知事
建設グラフ2001年2月号の記事内容より
――先日、朝日新聞にマハティール・マレーシア首相のインタビュー記事が掲載されましたが、同首相は“LOOK EAST”政策に関するコメントの中で、「日本には失望した。西洋のマネばかりしている。
日本独特のやり方で成長してきた、その過程を東南アジアも学んできたのに、それが変わってきている」と発言していました。
日本も“国際標準”の主張に押される形で、過度に欧米の基準に合わせようとし
ている傾向が見られます
堀
グローバルスタンダードとは、要するにアメリカン・スタンダードです。
しかし、スタンダードというものは、地域の歴史、風土、伝統によって育まれていくわけです。
そういうものが混じり合い、統合された形で、日本のありようというものが決まってくるのではないでしょうか。
したがって、北海道は北海道としてのスタンダードを持てば良いと考えています。
北海道の知事
建設グラフ2001年2月号の記事内容より
――それらを踏まえてみた場合、北海道民の意識には、変化または変化の兆しは見られますか
堀
もちろん、変化はあります。例えば、産業クラスターが20地域にできていますが、これ自体がそもそも 意識変化の表れです。
問題は、それを私たち行政がどれだけバックアップしていけるか。バックアップというよりは、むしろそうした取り組みをいかに実現していくかが問題です。
これは道内に限った問題ではありませんが、地域の皆さんと、道庁や道内212市町村がいかに協力しあっていくかにかかっています。
要するに、“協働-coraboration”ということですね。
現代は、経済のグローバル化や情報ネットワークの発展によって、農林水産業をはじめ、製造、金融、建設などあらゆる産業分野を取り巻く環境が大きく変化しています。
したがって、このような中で、北海道経済が将来にわたって健全な発展を実現していくには、活力ある企業活動に支えられた民間主導の自立型経済への転換を、着実に進めていくことが不可欠です。
そのためには、産業クラスターによって、情報通信、食品、住宅、観光関連の産業や、環境・リサイクル、福祉といった、北海道が優位性を持ち、今後成長が期待される分野に重点を置いた展開を図っていくことが必要です。